サミュエル・ベケット『わたしじゃない』

Samuel Beckett "Not I"

暗闇の中に浮かび上がる「口」が「彼女」と呼ばれる何者かの物語を語り続ける、ベケット後期戯曲の問題作を、木村自身が新たに翻訳し、上演。
2016年の初演では独自の世界を持つ男女3名のトリプル・キャストによって同作を連続的に演じることで、反復して語られる「彼女」の物語と、その差異を強調する公演形式をとった。そして2019年の再演ではさらに1名、英語での上演が加えられた。
木村が前作『I saw a shadow in the dark』で発見したレンズを用いた映像投影技術は、本作をきっかけに「Boxless Camera Obscura(箱なしカメラ・オブスキュラ)」と名付けられ、ベケットが戯曲で指定した「暗闇に口だけが浮かび上がる」という特異な演劇空間と結びつけながら本作に導入された。従来の「カメラ・オブスキュラ」と違い、対象物とレンズ、投影された映像が全く隔たりのない同一空間に存在することで、映像表現の最もプリミティヴな構造を直感的に露わにする。そして、被写体となる生身の実体と、純粋な光学現象によって投影された美しくも精細な虚像が並置される空間は、映像の本来的な不可思議さを見る者に体験させる。
そして極限までミニマムに削ぎ落とされた実体と虚像の奇妙なアンサンブルは、俳優の身体と俳優の口、発声器官としての口と口の表象、語る口と語られる「彼女」、主体と客体、人間と事物、あらゆる境界を静かに、しかし激しく撹乱する。

初演 / 2016 年、アトリエ劇研(京都)「アトリエ劇研提携公演」
再演
/ 2019年、SCOOL(東京)、Lumen gallery(京都)
上演時間
/ ​​​​​​​50min

作 / サミュエル・ベケット 翻訳・演出
/ ​​​​​​​木村悠介
出演
/ ​​​​​​​伊藤彩里 神嶋知(2019) 増田美佳 三田村啓示 
舞台監督
/ ​​​​​​​脇田友(2019)
上演許可取得代理
/ ​​​​​​​フランス著作権事務所
企画・製作
/ ​​​​​​​木村悠介