司辻󠄀が生み出す愛憎渦巻く言葉から、罵倒に対抗する言葉とそれを担う俳優の身体を模索した。本公演では散文体で綴られた言葉と俳優の身体にフォーカスしつつ、それらを繋ぐ〈吊り下げられた白紙〉というミニマリスティックな舞台美術を配し、ストイックかつ豊潤な密度の上演を行った。地面すれすれを常に揺れそよぐ白紙とは対象的に、極度に抑制された動作と長い沈黙により、ひとつひとつの言葉にシャープな重みが付与される。限りなく死と肉薄しながらも、ぎりぎりのところで生を肯定する本作には、瞬く間に消費されていく現代の言葉と時間、そして生の在り方に鋭いカウンターを浴びせかける。
身体はいつの間にか社会的になる。気がつけば、もうすでに全身が日々の生活のために制度的な機能を働かせる。権力に奉仕する身体。そのどうにもならない違和に向けて身体が言葉を書く。言葉を書くそばからまた違和が見つかり、言葉は果てしのない闘いになる。身体は欲望でみちあふれ、あなたを求めていたというのに。このわたしの身体を生活にあまんじる身体からあなたを求める身体へと作り変えるために言葉があるのだ。司辻󠄀さんの劇の言葉は闘いの言葉である。つまり、それこそが演劇なのだ。
松田正隆(劇作家・演出家)
初演 / 2023年、SCOOL(東京)
上演時間 / 70min
作:司辻󠄀有香(辻󠄀企画)
演出:木村悠介
出演:三鬼春奈
助成: 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[ スタートアップ助成 ]
主催:&Co.